研究系及び研究施設の現状 133
分子クラスター研究部門(流動研究部門)
三 好 永 作(教授)
A -1)専門領域:理論化学
A -2)研究課題:
a) 高精度のモデル内殻ポテンシャルの開発 b)ファンデルワールス分子のポテンシャル曲面 c) 芳香族分子の2量体カチオンの電子状態 d)液体水銀に対する分子動力学計算
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 全電子を対象とするab initio 分子軌道法(MO)計算では内殻電子をもあらわに考慮して計算を行なうが,しかし, これらの電子は化学的に不活性で普通の化学反応中にはほとんど変化しない。これらの内殻電子の取り扱いを簡 単化するために有効内殻ポテンシャル法があるが,われわれのモデル内殻ポテンシャル法もその1つである。す べての元素に対して高精度のモデル内殻ポテンシャルを酒井グループ(九州大学)とともに開発している。多く の有効内殻ポテンシャル法では,取り扱う原子価軌道は本来持つべき節(node)を持たず,このことが電子反発 積分を大きめに見積るなどの欠点の原因となる。しかし,われわれの方法では,内殻軌道空間に対するシフト演 算子を用いることで原子価軌道は節を持つことができる。そのため高次の電子相関エネルギーまでを必要とする ファンデルワールス分子のポテンシャル曲面の計算などで高精度の結果を得るものと期待される。現在,すべて の元素に対してこれまで発表したものより高精度の非相対論的モデル内殻ポテンシャルと相対論的モデル内殻ポ テンシャルを開発中である。
b)A rI2,HgN2,A rHC N,A rHF などの基底状態や励起状態のポテンシャル曲面を精度良く求めることは,現在でも 難しいことの一つである。一つには重原子を含む系では相対論効果を取り入れなければならないし,また,電子 相関を十分に取り込むために一電子軌道空間や全電子関数空間の取り方に気を配る必要があるからである。相対 論的なモデル内殻ポテンシャルを使い,電子相関を記述するするために適した軌道を用いて多参照配置からの多 電子励起の効果を含めたレベルで,これらのファンデルワールス分子のポテンシャル曲面を計算している。A rHF の基底および励起状態1∑+についてポテンシャル曲面を計算し,HF 分子の励起状態に A r を衝突させることで F - イオンが生成する可能性を示した。
c) われわれは,ベンゼン2量体カチオンの様々な構造に対して C A S S C F /MR S D C I のレベルでab initio 計算を行ない, サンドウィッチずれ構造が最も安定な構造であることを示した。また,ベンゼン3量体カチオンにたいして同様 の計算を行い,3量体カチオンにおいてもサンドウィッチずれ構造が最も安定な構造であること,さらに,その ずれ構造における励起スペクトルが実測のスペクトルをよく説明することを示した。また,フェノール2量体カ チオンのいくつかの安定構造の電子状態に対するab initio 計算を行ない計算で得られた OH 伸縮振動の基準振動 を実験で得られたデータと比較しながら研究を行なっている。
d)ここ数年来,第一原理からのアプローチに基づき,液体水銀の動的性質や熱力学的性質に対する研究を行なって
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きている。まず,二体ポテンシャルを高精度の分子軌道法から求め,二体加法近似のもとで分子動力学(MD )計 算を行なった。粘性率の実験データから決められたレナードジョーンズ型ポテンシャルを使った分子動力学計算 では再現出来ない液体金属特有の集団減衰運動を,この計算で再現することを示した。また,同様の計算で,金 属−非金属転移を含む密度領域でX線散乱実験から得られている構造因子や二体分布関数をよく説明する結果を 得,さらに,実測の熱力学的物理量(熱圧力定数や内部圧力)の体積依存性を定性的に説明することが出来た。現 在,希ガス流体のそれと大きく異なる水銀の気 - 液共存曲線を説明するため MD 計算を行ない,超臨界領域にお ける長距離構造に関係する密度揺らぎの極大と微細構造との関連性について調べている。
B -1) 学術論文
E. MIYOSHI, J. MAKI, T. NORO and K. TANAKA, “Multi-Reference Coupled Pair Approximation (MRCPA) Calculations for the Ground State of the ArI2 Complex,” J. Mol. Struct. (THEOCHEM) 461-462, 547-552 (1999).
T. SUMI, E. MIYOSHI and K. TANAKA, “Molecular-Dynamics Study of Liquid Mercury in the Density Region between Metal and Nonmetal,” Phys. Rev. B 59, 6153-6158 (1999).
E. MIYOSHI and N. SHIDA, “Ab initio Study on the Structure of the Ground State of the C3O2 Molecule,” Chem. Phys. Lett. 303, 50-56 (1999).
Y. SAKAI, K. MOGI and E. MIYOSHI, “Theoretical study of low-lying electronic states of TiCl and ZrCl,” J. Chem. Phys. 111, 3989-3994 (1999).
B -4) 招待講演
E. MIYOSHI, “Recent Devepolment of Model Core Potentials (MCPs) and Their Applications,” The 8th Korea-Japan Joint Symposium on Molecular Science, Taejon (Korea), January 1999.
E. MIYOSHI, “Coupled Pair Approximation Calculations of van der Waals Complexes,” The 5th Sino-Japan Symposium on Theoretical Chemisty, Hefei (China), May 1999.
B -7) 他大学での講義、客員
九州大学 , 「総合科目核を考える」, 1999 年 12 月 .
C ) 研究活動の課題と展望
基本的な課題は,モデル内殻ポテンシャルの開発とその応用であるが,A -3(研究活動の概略と主な成果)で示し たように各研究テーマ a)∼ d)に対する今後の研究計画を精力的に進める。a)については,すべての元素に対して 非相対論的モデル内殻ポテンシャルと相対論的モデル内殻ポテンシャルをスピン軌道相互作用の取り扱いを含め ていくつかのレベルで作成し,それらの有用性を示していく。これら以外の応用研究として,表面電子状態や固 体中の不純物準位に対する理論研究にも取り組んでいく予定である。